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「みんな、お互いのことを知らないだけ」

2016.2.28 たねと食のおいしい祭 ドキュメント
「オープニングトーク 山形・在来作物がはぐくむ食育の未来」
text by 間宮俊賢(カフェスロー/たねと食のおいしい祭vol.4統括責任者)

ゲストは映画監督の渡辺智史さん、「山形食べる通信」編集長・松本典子さん、最上伝承野菜農家「森の家」佐藤春樹さん。「山形×在来作物×食育」の持つ、ワクワクと輝くような可能性のお話です。
 
●渡辺智史さん:在来作物で味覚のレッスンとは?



90年代以降、フランスで広まった味覚教育のプログラムで、特に重要な位置付けとなるのが「味覚のレッスン」です。

一方の日本では、2005年の食育基本法の制定後も、食育といえばカロリー計算などの栄養学的な面、マナーなど道徳的な面での教育内容が多く、味覚を育てるという観点は重視され来ませんでした。(近年では味覚教育にも注目が集まり、都内でフランスをモデルに「味覚の一週間」が開催されるなどの動きが起きている。)

一方、子供たちの味覚が鈍くなっている傾向を示す調査結果が出ています。ストレス社会の影響なのか、味の濃いものや辛いものにトレンドが引っ張られている。

【参考:「甘み」や「苦み」などの味覚について、およそ350人の子どもを対象に東京医科歯科大学の研究グループが調べたところ、基本となる4つの味覚のいずれかを認識できなかった子どもが全体の30%余りを占めた。】
http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/200/201265.html 

在来作物・伝統野菜といったワードは今、全国で注目を集め、栽培する農家さんも増えつつあり、ある意味、少しブーム的な盛り上がりが出てきています。

しかし山形県内でさえ、家庭で在来作物が日常的に食べられているわけではなく、むしろ子供の朝食に菓子パン一個やコンビニ弁当といった家庭が増えている。子供の食をとりまく環境そのものを見直していかないと、在来作物は守れません。

一方で在来作物には、採種選抜を通じて、農家さんの目利きやこだわりが宿っています。その過程で個性が育ち、その土地ならではの作物に育ってきた。そうしたこだわりを受け止める繊細な味覚は、小さいころから訓練しないと育ちません。

子供たちの味覚を守ること、在来作物を守ることは切り離せず、どちらも同じように大切なのでは? という考えから「在来作物で味覚のレッスン」コンセプトが生まれました。

今回の「在来作物で味覚のレッスン」パンフレットは、子供が喜んで興味を持ってくれるよう、在来作物を使ったスイーツのレシピを多く載せています。「在来作物で味覚のレッスン」を全国で、味覚教育のツールに使って欲しい。こちらで内容に制約を設けることはないので、地域ごとに色んなやり方で創意工夫してもらえれば。

土地に対する愛着、帰属意識が育つことで将来的に、子供たちが土地に戻ってきたり、土地のものを食べ続けるファンになってもらえる。そういう子供たちを育てていかないと地域は衰えます。私たち大人の想いをのせ地域の食材で、子供たちを養って育てていく。そうして食のコミュニティをつくっていくことがやがて力になると思います。

●食べ方こそ伝統

今回、間宮とともに企画とナビゲーターを務めた飯田雅子さん(山形県朝日町「果樹園木楽」/元・山形県舟形町地域おこし協力隊)より、舟形町の在来作物「西又かぶ」の鮮やかな漬物が振る舞われました。



写真は、西又かぶの収穫風景。 大根のように細長く、独特の辛みがある赤かぶです。舟形町の西又集落で作られているのですが、限界集落で、現在では2〜3軒ほどのお宅でしか栽培されていないそうです。

飯田さんによると、在来作物のなかには実際のところ、栽培している当人にとっても「元々あるから作ってる」という程度の認識で、そこまで思い入れがなかったり、価値を感じていないケースも珍しくないそうです。自分たちがいなくなれば、この野菜もなくなるんだろうな…とは思いつつ、現実として後継者もいない。

そんななか、地元の人でも食べたことがなかったり、使い方がわからないような作物が、まだ全国にたくさん眠っていると考えられています。

「よみがえりのレシピ」を観た人が、「うちの田舎のアレって在来作物だったのかも?」と気づくような掘り起こしが全国で起きているそうです。栽培している本人には見慣れて当たり前と思っている作物が、周りからは珍しく喜ばれる。その価値を、作ってる人自身も気づいていない。

「食べ方こそ伝統」と松本典子さん。「在来作物は単なるモノではなく、土地の味であり、なぜそれが残ってきたのか?という物語や伝統をのせている。そこに郷土料理のレシピや生活文化が紐付いている。それまでもが失われてしまうことが問題なのです」

●松本典子さん:山形食べる通信のこと



よみがえりのレシピに出会い、山形の在来作物を応援するようになり、監督と一緒に農家さんを訪ね歩くなか、人気のない在来作物もかなり多い実情を知りました。

周囲の女性に聞いてみると「食べ方がわからない」という声が多く、在来作物は敷居が高いと思われています。クックパッドでレシピが見つかるわけではないし、興味をもって買ってみても、一回失敗すると、それで二度と買わなくなってしまう。

山形の在来作物の楽しみ方を伝えたいと考えるなかで「食べる通信」の取り組みに出会い、これだ!と感じ「山形食べる通信」を創刊しました。創刊から1年で、現在240名程の読者に支えられています。7割が首都圏の読者。1割が山形県民。出身や親戚が山形、旅行で愛着がある、などの人もいます。

昨年12月号は、赤根ほうれん草の特集でした。日本古来の品種で、山形では雪と寒さでギュッと甘みが増し、根がメロンみたいに甘くなります。スーパーの品種とは見た目も味も全然ちがう。読者からおどろきの声が寄せられました。

「いろんな正解がある」というキャパシティの広さが、私にとっては在来作物×食育の魅力です。「かぶを描いて」と皆さんに言ったら白くて丸いかぶを描きますね。でも本当は、長いのも、曲がっているのも、赤いのもぜんぶ正解。それってすごく、未来が楽しくなると思います。子供が出してきた多様な答えに対して、バツじゃなくマルをつけていける文化。そういう未来が続いてくためのお手伝いをするのが「山形食べる通信」というメディアです。ここでは、読者は一緒に食べつないで楽しんでくれる存在です。大人がそういうライフスタイルを楽しむ姿自体が、子供への食育になると思うのです。

食べる通信では、交流イベントやFacebookの読者限定ページを通じて、読者から生産者に「こんなふうに食べたよ」「おいしかったよ」と伝えることができます。生産者にとっても、驚きや発見がたくさんあります。食べる側の人間が思っている以上にずっと、生産者にとっては食べる人の声が聞けるのは、うれしいことです。

●佐藤春樹さん:畑の先生



真室川町は山形県の県境、どんづまりの最奥地です。野菜を種採りするのは当たり前。最上地方で在来作物も一番多い地域です。

在来作物を知ってほしいという思いから、地域の小中学校に「畑の先生」として出張しています。小学生は、栽培や収穫を体験したり、自分でレシピを考案して料理したりというプログラムをいきいきと楽しんでくれます。植えた種芋から出た葉が、やがて自分の背丈をこえていくことに感動したり…。最後には里芋をアイスクリームにして食べてもらうと、とても喜んでもらえます。小学生は素直で、接するのも楽。

それが中学生になると、関心が地域の外に向かい、地元への愛情を持ってもらうことに難しさを感じます。求めてるものは地元にはない、と思うのでしょう。将来のことも考えるなかで、地元で農家をやるという選択肢は入っていません。

それでも、都会に出て色々な経験をして感性が育ち、やがてそれぞれの事情で帰ってくる。そのときに、ちゃんと地元の良さを感じてもらえるようにしておきたい。

「あの頃、甚五右ヱ門芋ってあったな」と覚えててもらうことが今の自分には精一杯だけど、いつか地元に帰った時にそういうこと…例えば在来作物を守っていたり、いいパン屋さんやコーヒーショップがあったり、つながりや共感が少しでもあると、入りやすいと思うんです。都会での経験を活かして地元で活躍するにも、コミュニティがあった方がいい。だから記憶の片隅で覚えておいてもらうだけでもいいんです。

授業では反応が薄いこともありますが、やはり実際食べてもらうのが一番。話は早々に切り上げて、ふかしたての甚五右ヱ門芋を、せいろのフタを開けて、わあっと湯気を出してるのを食べてもらうと、ちゃんと笑顔と会話が生まれます。しゃべるより食べるが伝わる。味覚のレッスンも同じで、五感を通すことが大事。

いまは離乳食を食べている自分の子供にも、ありのままの野菜の美味しさを伝えたいし、郷土料理を食べさせていきたい。大人になってからも記憶に残っているようなものを伝えていきたいです。

●松本典子さん:娘の胃袋をつかむ

食べる通信で紹介している食材を、2歳の娘にも食べさせているのですが、娘の反応がいいものは読者の反応がいいです(笑)。大量の赤根ほうれん草を、ぜんぶ食べてしまったり…普通のほうれん草とは明らかに違います。からだで表現してくれて、とってもわかりやすいです。

我が家ではふだんの食卓に、郷土料理や在来作物が登場します。娘の胃袋をつかんで、将来鶴岡に戻ってこさせる胃袋作戦です!

私は埼玉育ちですが、鶴岡の祖母を夏休みに訪ねると必ず用意してくれた山盛りのだだちゃ豆は、夏の楽しい思い出です。そういう豊かな記憶、思い出があったから、鶴岡に移り住むことにも前向きになれました。おいしいものには、人を地元に戻ってこさせる力があります。なので私は、味覚教育を娘で実践しています。

●松本典子さん:待つ文化について

ライターとして陶芸や木工製品の作り手を訪れることが多いのですが、作家さんは皆、ものすごい量の在庫を抱えています。デパートの依頼で作ったけど残った、という場合、器は在庫として戻ってきます。売り先もなく家の片すみに大量に残しておくしかない。農家も同じです。スーパーなら廃棄されますが、産直は残ると農家が引き取り自宅に持ち帰る。賞味期限があるので葉物はもう販売できないし、自家消費しかない。

産業全体にいえることですが、「売り場の棚にないものは買えない」が当たり前という発想から、「目の前にはないけど、収穫まで待つ」という人が増えれば、何かが変わるのではと思います。

お互いの顔が見えないなかで一方的に都合を押し付けあうような、生産者と消費者の分断が問題です。買う側に悪気はないと思います。そんな在庫があることを知らないし、そういうものだと思っている。お互いのことを知らないだけ。

待ってくれている人がいることは、作り手にとって精神的支えにもなるし、価格にも反映することができます。飲食店だったら、ロスを考えずに最高のパフォーマンスで一番いいものを作ろう! となりますね。

食べる側もそれを楽しみに待ち、手にする喜びを持てる。今すぐ欲しい!ではなく、一緒に待って楽しむ。そういう営みをやっていくのに最もわかりやすいのが農作物。それを食べる通信で提案したいのです。


●参考までに

「在来作物で味覚のレッスン」パンフレットのクラウドファンディングサイトでは、色々なエピソードやスタッフの言葉が綴られた連載記事を見ることができます。

料理教室で「かぶさんゴメンナサイ。」と言った女の子のお話。
https://readyfor.jp/projects/kids_recipe

ブランド化と食文化の違いについての話、だだちゃ豆を例に。
https://readyfor.jp/projects/kids_recipe/announcements/11775

山形の田舎で育ったおばあちゃん子スタッフ佐藤さんの、舵を握るのは大人の知識、というお話。
https://readyfor.jp/projects/kids_recipe/announcements/11029

在来作物は、失われないように守るべきものという意識ばかり持ってしまいがちですが、その豊かさ、奥深さ、背景にある物語、与えてくれるものの大きさを知るほどに、むしろ「在来作物が子供たちを守ってくれる」そんな未来があるように思えてくるのです。

在来作物で味覚のレッスン 公式サイト
http://y-recipe.net/mikaku_lesson/

山形食べる通信
http://taberu.me/yamagata/

最上伝承野菜農家 森の家
http://www.morinoie.com/

たねと食のおいしい祭 公式サイト  






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